敏腕秘書による幼なじみ社長への寵愛
シャワーを終え、着替えてメイクも済ませると、私はダイニングテーブルの椅子に腰を下ろす。
ワイシャツとスラックスにエプロン姿の優介は、手際よくスマートにコーヒーを注いだ。

「ありがとう。痛たた……」

カップを受け取ると、こめかみの辺りがズキズキした。

「子ども服ブランド、スイートアップルの林社長はお酒が強いですからね。昨日は珠子さんも結構無理したんじゃないですか?」

優介は話しながら、私に頭痛薬とグラスに入った水を差し出す。

「うん……。でも、すごく勉強になった。スイートアップルは海外で認知度を上げて市場を拡大してる。海外の需要はうちにとっても大切だから、お話を聞けてよかったわ」
「そうですか。それならよかったです」

私の言葉に優介は、睫毛を伏せてやわらかく微笑んだ。

私は去年、ミスユーというブランドの商品を製造販売する会社の社長に就任した。
ミスユーは私の亡き父、茅原徹(とおる)が立ち上げた日本を代表するファッションブランド。

『日常をエレガントに』というコンセプトのもとデザインされた、シンプルだけれど洗練された洋服やアクセサリー、靴、バッグといった装飾品は、幅広い年齢層に受け入れられている。

私は大学を卒業後、広報で働いていた。
けれども父が亡くなってからはパタンナーである母、茅原容子(ようこ)と二人三脚、ミスユーを守り成長させていくことに心血を注いでいる。

優介は、そんな私の秘書として働いている。

ミスユーは今大事なときだ。
国内のみにとどまらず、海外にも法人を作り、通販サイトを展開して売上をどんどん伸ばしている。

そのため慣れない社長業務に四苦八苦している私を、仕事でもプライベートでも優介が支えてくれているのだ。

朝食を終えるとふたりでマンションを出た。

私は今、両親が購入した高層マンションに入居していて、隣が優介の住居だ。
母が一軒を優介に格安で貸している。

優介にエスコートされ、私は車に乗り込んだ。

「エスプレッソです」

後部座席に座った私に、ニコッと口角を上げてタンブラーを手渡す。

「うれしい。飲み足りなかったの」
「眠くならないようにカフェイン強めです。新店舗で桜木社長に会う午後三時は、珠子さんの目蓋が重くなる時間ですからね」

優介はなんでもお見通しだ。
あまりにもいたれりつくせりで、時折心苦しいほど。
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