アンコール マリアージュ
私を助けてくれますか?!
(ん?この手紙…)

仕事を終えて寮に戻った真は、『302 齋藤』と書かれたポストを開けて封筒を取り出し、手を止める。

宛名を確認すると、齋藤 真菜様とあった。

(今度は逆に間違えられたか…)

入居の際、管理人から、ポストに記名するかどうかを尋ねられた。

女性のひとり暮らしも多く、防犯の観点から、ポストの記名をどうするか、本人に確認しているのだという。

真は、ここにはそう長くいないから記名しなくていいと1度は断ったのだが、真菜との1件があり、やはり記名してくれと頼んだのだった。

真菜のポストは相変わらず記名されていない為、今回は逆のバターンで間違われたのだろう。

そう思って、隣の202のポストに入れ直そうとして、ふと気付く。

(これ、切手と消印がない…)

さらによく見ると、住所は合っているが部屋番号が書かれていない。

(部屋番号が分からず、ここまで届けに来たのか)

裏返してみても、差出人の名前はどこにもなかった。

(本人に部屋番号を確認すればいいものを、わざわざここまで来て、ポストの名前を見て入れた…)

妙な胸騒ぎがして、真はじっと封筒を見つめる。

無地の事務的な封筒に、パソコンで印刷された文字…

DMでもなければ、大事な封書でもなさそうだが、かと言って友人からのものにしては味気ない。

そもそも友人なら、部屋番号を本人に確認するだろう。

真は、親指をすっと封筒の上に滑らせてみた。
そして一気に顔色を変える。

封筒を手にしたまま急いで部屋に帰ると、鞄をそこらに放り出し、ダイニングの椅子に座った。

テーブルに置いた封筒に手をかけ、一瞬ためらう。

(もし俺の見当違いなら…。その時は彼女に謝るまでだ)

小さく頷いてから、ゆっくりと封を開けると、中に手を入れずに封筒を傾けた。

微かな音を立てて、中身がテーブルに落ちる。

(…やっぱりか)

大きくため息をつきながら、真は天を仰ぐ。

テーブルの上には、1枚のカミソリの刃が落ちていた。
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