紫陽花が泣く頃に
6 雨上がりの時まで
強いと思っていた柴田は、そのあとも泣き続けた。
周りの雨音よりも激しく、俺にすがるように。
ひとりにさせたくないって思った。その不安定さが自分にそっくりだったからだ。
俺もひとりじゃダメだけど、ふたりでならなにか見つけられるんじゃないかって。弱さをむき出しにした柴田を抱きしめながら、俺のほうが支えられている気分だった。
あのあと柴田を自宅近くまで送って、俺も家に帰った。ベッドに横になりながら頭の中で柴田と美憂の顔が交差している。
――『千紘くん。紫陽花の花言葉って知ってる?』
そう聞かれたのは、美憂が大きな発作で病院に運ばれてから、二週間が過ぎた頃だった。
*
「え、花言葉?」
美憂の病室はこの町で一番大きな病院の306号室。その窓からは、紫陽花が咲いている中庭が見渡せる。
「当ててみて」
「うーん、愛情とか?」
「ぶー。ハズレです」
「じゃあ、教えてよ」
美憂はベッドの上で体を起こしながら、イタズラっぽく微笑んでいた。
「紫陽花の花言葉はいっぱいあるんだよ。移り気、忍耐、冷淡、傲慢とかね」
「へえ。でもあんまりいい意味じゃないね」
「でもね、紫陽花には〝強い絆〟って意味もあるんだよ。小さな花びらがひとつにまとまって花を咲かせてるからなんだって。なんだか素敵じゃない?」
瞳を細めて笑う美憂は、ずいぶんと痩せてしまった。
強い薬を投与しているせいで、食べ物もロクに食べられていない。俺が剥いたリンゴなら口に入れてくれることもあるけど、ひと口かじるのがやっとの状態だ。
今まで美憂は病気だということを感じさせないくらい元気だった。でも今は腕に繋がれている点滴が痛々しく、体の中にいる病魔に苦しめられていることがよくわかる。
それでも美憂は、俺の前では絶対にツラい顔は見せなかった。
「明日も学校が終わったらすぐに来るから」
「無理しなくていいんだよ?」
「無理じゃない。一時間でも三十分でも、例え五分間だけでも俺は美憂に会いたいから毎日来るよ」
「ふふ、ありがとう。千紘くん」
俺たちの面会時間は限られている。美憂の顔が見られるのは、夕方の五時まで。こうして平日だと少ない時間しか一緒にいられないけれど、美憂は俺が学校を休むことは許してくれなかった。