執事の憂鬱(Melty Kiss)
4.その頃、銀邸にて
清水が、会社で窮地に立たされていた頃――

銀邸の大きな邸の中に、珍しく紫馬が帰っていた。
丁度、大学が春休みを迎えたのだ。
父親が傍に居るのは幼子にとって喜ばしいことなのだろう。
都は、いつになくはしゃいだ毎日を送っていたのだが……

コンコン

静かに部屋がノックされた。
紫馬は吸いかけの煙草を口に銜えたまま

『はい』

と言ってみる。
手には読みかけの新聞があったが、そのままだ。

『失礼します』

入ってきたのはこの春中学生になる銀 大雅だった。
すっかり大人びた雰囲気を身に纏っているのは、年のせいだけではないだろう。

『どうしました、大雅くん』

紫馬は口許に微笑を携えて問う。

『都さんが怒ってるんですけど』

と。やや疲れた様子で大雅が言う。

『知ってるよ。
でも、彼女ももう小学生だろう?
字だって読めるはずなのに。俺に向かってなんていったと思う?』

『さぁ?』

『パパ、昨日も新聞読んでたんだから、もういいじゃない……って。
新聞は昨日と今日じゃ別物なのにねぇ。
大人びて見えても、まだまだ子供だねぇ』

よほど面白かったのだろう。
にこりと笑いながら、紫馬が言う。
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