悪魔は甘く微笑んで【恋人は魔王様 番外編◇ドリーム小説】
8.子犬のワルツ
■子犬のワルツ(by.Chopin)


「おはよう、きよみさん」

翌日、志保さんは何事もなかったかのようににこやかに登校してきた。

「おはよう、志保さん。
 昨日は大丈夫だった?」

「ええ、……それにしても、今更ながら倒れるくらい氷川さんのことが好きだったんだー、私って」

なんて満面の笑みでいわれても、なんて答えたらよいのやら。

「それにしてもあれよね。
 氷川さんの人気ってうなぎのぼりじゃない?
 前はあんなにお芝居の途中で『亮様ー』なんて歓声、入らなかったわよねぇ」

そういうと、ふっと志保さんの顔が曇った。

「あれはね、絶対的なマナー違反よ。
 テレビで氷川さんを見て、劇場に来るようになったにわかファン。
 でも、なんだか最近は旧くからのファンをねたむ人まで現れるようになったみたいで。結局、テレビ活動は自粛するみたいよー。
 昨夜遅くに届いたファン宛てのメールにそう書いてあったの。
 で、今後はそういう限定のファンサービスも辞めちゃうんだって」


残念そうにいってますけど、それは多分、志保さんが被害にあったからなのよ……。
心の中で呟いてみる。

もちろん、記憶の無い志保さんにそう指摘するわけにもいかないけれど。


だから、誰かが。
恐らくはあの黒ずくめの『魔王様』が、氷川亮総に直談判したに違いなかった。


……ってことは、志保さんこそがその『輪廻転生の人』なのかしら。


私の頭の中は、疑問符だらけ。


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