ストロング・マン
「久しぶりに会ったのにそれはなくね?」


真っ白な壁と病院独特の香りが漂う大きな個室のベッドに、私の大好きなお母さんが横たわっている。

痩せ細った腕はベッドのシーツと同じ色で、私はただ、お母さんの顔を他人事のようにぼうっと眺めていた。


お母さんが元気な姿を見たのはいつだっただろう…


ふと、そんな考えを巡らせていたが、ほっそりした弱々しい手がそっと、私の手を握るものだからギュンと一気に現実へと引き戻された。


「郁、強い人と、一緒になるのよ…

そして、幸せになって。」


と、お母さんは弱々しく微笑んだ。
私はそんなことを言われると思っていなかったし、言葉の意味を考える余裕もなかったから、首を縦に振るので精一杯だった。
それを見て安心したのか、お母さんは静かに、ゆっくりと目を閉じた。



私の大好きな大好きなお母さんは天国に旅立った。
私が高校1年の頃だった。




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