ストロング・マン

◇◇◇


「--先輩、今、大丈夫ですか?」


私がはっと顔を上げると、可愛らしい瞳が心配そうにこちらの様子を伺っていた。

「ごめん、ぼーっとしてた。

 どこかわからないとこあった?」

久しぶりにお母さんとのことを思い出していた。
こんなことここんところなかったのに。しかも仕事中に、なんて。

さっきまでの思考を取り払うために、すぅ、と小さく息を吸い込む。

せっかく可愛い後輩が自分のところに質問に来てくれたのだ。
先輩としては出来る限りのことはしてあげたい。
なぜなら自分も新人の頃、「本当に使えないやつとはこういう人のことを言うんだな」
と、自分でも客観的に感じてしまうくらい仕事ができなかったのだ。

こんな自分に自分自身が一番先に嫌気がさしてしまっていたが、周りの先輩方は優しかった。
私が聞きにいくと親身になって教えてくれ、理解できていないところにとことん付き合ってくれた。
そのおかげで、社会人3年目となった今では、後輩に仕事を教えるまでに成長することが出来た。
これもすべて先輩方のおかげだ。

その頃を思い出しながら後輩の加藤ちゃんに内容を説明すると、私の席に来たころとは打って変わって表情が明るくなって自分の席へ戻っていった。


後輩のこんな顔が見れるのが嬉しい。
こんな私でも誰かの役に立てていると実感できるから。

< 2 / 87 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop