美少女戦士 イグニス・ドラグーン・ユイ!
 アナタは知らないだろう。

 「感情→現実世界」の等式の下で、人の三大感情、【悲愴】、【憎悪】、【憤怒】が、ある種の異常な精神状態において『感情暴走』を引き起こした時にのみ発現する特別な力があることを……。

 ……それは強すぎる感情が、質量や実体を持って現実世界に現れる現象であった。
 
 「感情→実体→現実世界」――!


 
 かつて中世では、そのような報告が、ままあった。
 
 ―――……

 遠征中の十字軍の一隊が、あるムスリムの村を襲撃したという。
 その村は小さく、しかも男手は兵として借り出されていて、女や子供しかいなかった。抵抗の余地などなかった。若い女は強姦され、老婆は矢の的として遊ばれた……。

 けれど三日後、別働隊が発見したのは、そのようにして兵士に弄ばれ殺された女達の亡骸だけではなかった。100名の兵達もまた死んでいたというのである。しかも奇妙な事に、それらの兵の死骸は、引き裂かれ、噛み千切られ、焼かれ、踏み潰されていたという。
 
 熊ではない。いくら巨大な熊でも100名の武装した兵士は殺せない。しかも殺し方で言えば、地球上に現存するどんな肉食獣にも無理だ。そもそも我々の知る動物は火を噴いたりしない。
 
 彼らを殺したのは、そうではない。もっと巨大な、何か恐ろしい魔獣…。
 

 この手の凶談は、たいてい、戦火に見舞われた貧村である。
 その村では虐殺が行われ、強姦が行われ、男達の笑いを、隠れた床下から“子供”が見るのだ……。
 
 だから私はこう思う。
 地獄のようなその光景に、ただ一人の生存者がいた。子供だ。
 
 そして彼はその小さな胸に【悲愴】、【憎悪】、【憤怒】を迸らせていた、と。

 そして……

 それらの感情が実体を持って……つまり魔獣となって、現実世界に“働きかけ”をしたのだ、と――!
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