硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~

actress

エレベーターは、速やかに上がり、最上階の10階に着いた。

静かに扉が開く。

【うわぁ!…】

私は、目の前に現れた光景に、言葉を失った。

真正面は硝子張りで、太陽の光が差し込み、水色の空が見える。

天井の真ん中には大きなシャンデリアがあり、広い室内には、ゴールドの装飾が広がっていた。

「日和ちゃん」

先にエレベーターを降りた彼は、見とれている私に、そっと声をかけた。
そして、私に右手を差し出した。

私は、そんな経験がないのでどうしたら良いのかわからず、一瞬考えた。

洋画などで見たことはあった。

【エスコート…っていうんだっけ…】

映画などで見た時には、男の人が格好を形作っている印象があったので、そんな経験のないまだまだ子どもの私には、自分がされたら、慣れなくて、むずがゆいだろうなと思っていた。

けれど、彼は、自然だった。

立ち止まって、右手をそっと私に差し出す。

私は、彼の掌に、そっと自分の手を置いた。

触れた手に、心がうずいた。

初めて触れた、男性の手。

私は、生まれて初めての経験に、心を揺さぶられた。

< 31 / 156 >

この作品をシェア

pagetop