天空のエトランゼ〜赤の王編〜
第三部 心無き心編

神話

「赤星…浩也…くん」

「はい!」

握手をかわす手からも、大した力を感じない。

しかし、先程の疑似太陽を発生させたのは、間違いなく…彼である。


(赤星…)

九鬼の頭に、綾子の姿が浮かんだ。

そして、まだ見たことはないが…綾子の兄である。

(赤星浩一)

この世界で、彼の噂を知らない人間はいない。

異世界から来た勇者として、戦い続けた男。


(だけど…彼の名は、赤星浩也)

九鬼から、握手を離した。

まじまじと、目の前で笑顔を浮かべている浩也を見つめてしまった。


言葉が続かない。

沈黙が、2人の間に流れた。


(どうする?)

九鬼が悩んでいると、正門に誰かが飛び込んできた。

「あたしを置いていくな!」

風のような速さで、2人のそばまで来た少女を見て、九鬼は目を丸くした。

「それに!勝手に、発光するな!今は、夜だぞ」

少女は、浩也に詰め寄った。

「ご、ごめんなさい…。おばさん…。邪悪な気を感じたから」

怒られて、項垂れる浩也の襟元を、少女が掴んだ。

「おばさんと言うな!せめて、お姉さんと言え!」

「ご、ごめんなさい…おばさん」

「だからな!」

永遠に終わりそうにない2人のやり取りに、九鬼はため息をつくと、声を発した。

「久しぶりね。カレン」

九鬼の声に、浩也の襟元を絞め上げていた少女がはっとして、顔を向けた。

「真弓?」

おばさんと言われた少女は、カレン・アートウッドだった。

驚くカレンに、九鬼は頷いてみせた。

「この時間まで、学校に?」

「ええ」

カレンは、九鬼の手に乙女ケースが握られているのを見た。服も破けていた。

「相変わらずのようね」

カレンの言葉に、九鬼はまた頷いた。





その様子を、体育館の屋根から見下ろしているアルテミア。

気も魔力も抑えていた。

「これで…役者が揃った」

その呟くと、屋根から消えた。
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