千里ヶ崎の魔女と配信される化け物
漆黒の髪を背中へ長く垂らし、悠然――というより惰性的な態度で長ソファーに横たわっている彼女は突然、

「IFの直訳はなんだい?」

と質問してきた。

狭い部屋だし、ここには今、僕と彼女しかいない。いや――侍女の香蘭さんは買い物に出ているから、正確に言うと、この屋敷には僕と彼女しかいない。

今の質問は、だから僕に向けられていた。

「『もし~』ですね。それがなにか?」

彼女は、とても頭がいい。IFの意味ぐらい、人に訊ねる必要もないはずだ。

だから僕の質問は、「なぜそんなことを確認するんですか?」というのが含まれている。

もちろん、彼女はそれぐらい想像してくれたことだろう。

「いや、考えてみたくなってね」

と、彼女は笑った。

「いいかな皆川くん。世間に数多生産される小説や映画、漫画といった娯楽物は、ノンフィクションを除けばすべてこのIFから創作されている」

「はあ……」

「だからね、私も少し想像してみたくなったんだ」

「……小説や映画、漫画を作ってみたいと?」

「いや、作るまではしないよ。私は研究に忙しいしね。だから想像するだけさ」
 、、、
「だけさって……」
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