グズグス鼻を啜りながらあたしは歩いていた。


ちょこちょこすれ違う人からは好奇の目で見られるけど、そんなのもう慣れっこで気になんかしない。



それよりあたしは早く彼に会いたかった。



人通りが少ない裏道で



『バンビ』



そう書かれた看板を見上げる。


手入れの行き届いた花壇の間を通り抜け、あたしは扉に手をかけた。


カランッ、と爽やかな鈴の音色は今のあたしの気分とは雲泥の差だ。



その音に反応し、振り向いたその人は、涙やら鼻水やらでボロボロなあたしの顔に動じることもなく、柔らかな笑みを浮かべていた。



『いらっしゃい、奈未(なみ)さん。』



穏やかな低音の優しい言葉にあたしの涙腺はさらに決壊する。



「あ゙さの゙さぁぁぁん!」


浅野さんはそんな状態のあたしを見て呆れたように笑うと近づいてきてあたしの顔をタオルで拭った。


ふわふわ柔らかくて良い香りがするタオル。



『よしよし、泣かないでください。…ほら、こっちですよ。』


浅野さんはそう言ってあたしにタオルを持たせると手をとりエスコートしてくれた。