満ち足りない月
Ⅰ 隠したい嘘




薄暗いこの森に、夜が生み出すその美しい月明かりが差し込む事はなかった。



上へ上へと伸びている木々たちは頭にたくさんの葉を蓄え、森全体を傘のように包み込んでいた。


只でさえ、薄暗い森だというのにただ唯一の明かりである月光が届かないため、もはや周りは真っ暗で、何も見えない。



夜になって動き始める獣たちの低い唸り声だけが森に音を生み出した。


風の音すら聞こえない。


かつてはここも青々とした鮮やかな葉が生い茂る美しい森だった。


しかし年をとるのは人間だけではない。やはり森も木も年をとるのだ。



太く、しっかりした幹はヒョロヒョロとした痩せこけた木になっていた。



かつては深紅のきれいな実を実らせていたのに今は湿った暗い色の葉を蓄えるだけ。



もうここはかつての美しい森ではないのだ。



そんな暗がりの中、一人で歩くのは寂しいし、怖いだろう。



しかしその森をさまよっている"人"はいたのだ。
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