満ち足りない月




「どうしよう…」


セシルは湿った空気が漂う暗闇の森を見渡した。


月光は一向に届かず、上にあるのは屋根のようにたくさんの葉を蓄えた木々たちの傘のみ。



セシルはそんな森を見つめながら、不安を隠さずにはいられなかった。


いくら怖いものしらずのセシルとはいえ、こんな真っ暗な暗闇に一人だけで歩いていて心細く思うのは当然だ。


近頃は町で不気味な話もよく聞く。



吸血鬼が若い娘を狙って血を吸っている、や化け猫が現れた。狼男が森をうろついているなど。



どれもありもしない生き物の話だ。なにもない所で火は起こらないだろうが、セシルは信じていなかった。


何しろ自分自身で見たものだけを信じるというのだから。結構な頑固者だ。
< 4 / 255 >

この作品をシェア

pagetop