元気あげます!巴里編
独身ですから。
ひかるはいつもなら、遅くても10分前には調理用具を持っている状態で仕事を始めるのですが、今日は初めてのギリギリセーフでの到着になってしまいました。
「す、すみません。遅れました。」
「めずらしいねぇ。前日にデートでもしてたのかな?」
兄弟子のティエリは当たりはやわらかいものの、ちょっぴり嫌みを含んだ物言いをしました。
「いえ、ちょっと三崎の会社で・・・」
「理由なんていい。チーフがもう来るから、早く準備しろ!」
セルジュには怒鳴られてしまいました。
ひかるは自分の頭を両手でポンポンっとたたいて、作業に入りました。
弟子たちはそんなひかるを見たことがなかったので、不思議そうな顔をして顔を見合わせました。
お昼休みもルーイがひかるの様子を見て、何かあったかと質問しましたがひかるは笑って「何でもないよ。」としか答えませんでした。
会社で何かあったことは確かだけれど、ひかるが気になるのは電話の向こうにいた女性のことでした。
千裕は自分が経営する会社の中で、自分に近しい仕事をする人は秘書でも営業でも先生でも男性社員を配置しているといつも言っていました。
電話の向こうの女性は社員ではなさそうな口調だったし、どちらかというと、高飛車な印象がしたので、お客様?取引先の人?
考えれば考えるほど、いい方向には想像はできませんでした。
夕方になって、セルジュが怪しいヤツがいたと言って、裕文の首根っこをつかんでチーフに報告しにきました。
「あれ、君は?」
「裕文様!どうしてここに?
日本に帰らなきゃならないんじゃないんですか?
教えてください、千裕様に何が起こっているんですか?
ご存じなんでしょう?」
ひかるは少し涙をためて叫びました。
ヴァレリーは手をポンとたたいて裕文に話しました。
「そうだ。君は千裕の弟だね。
いくら三崎の人間でもストーカーみたいなマネはいけないな。
うちのお姫様が泣くと、みんな機嫌が悪くなるみたいだから、大切なことを説明してやったらどうかね?」