偽りの結婚



「やっぱりここが一番ね…」


柔らかな陽の光と色とりどりの花を目の前に感嘆の溜め息を吐きながら呟く。

そしてもう一つ、私がこの場所に足を運ぶ理由があった。





――クォーン…


森から聞こえてきた鳴き声にパァと顔が明るくなるのを感じて振り返る。

カサカサと草の根を分けて近づいてきたのは銀色の毛並みに青い瞳を持った狼であった。




「ディラン」


ディランというのはこの狼の名で、私が勝手につけたもの。

呼びかければ嬉しそうに尻尾を振りながら駆け寄ってくる。





ディランとは雨が降りしきる嵐の夜に出会った。

いつものように木の実を探しに森に来ていたが、雨が降り出して、近くの洞窟で雨宿りをしていた時に出会ったのが最初。

その頃のディランはまだ小さく、足に怪我をして群れからはぐれてしまったようだった。

最初は怖かったけど、まだ子供だったから良かったのか怪我の手当ても大人しく受けてくれた。


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