桃園むくげXX歳である。
宇治姉妹次女、25歳である。
 朝顔の花の形を愛おしいと思った4歳。
 垂れ下がるぶどうを円錐形に剪定しながら細く笑んだ17歳。
 円錐という形に究極美を見いだして、異常なくらいに恋をした。
 齋院のあおい、2歳である、よろしく。

 同じような思いを男へ燃やし、燃やされたた宇治女史。
 職業ホステス。

 私はアフターで制服姿、宇治女史は可憐な緑のワンピース。
 揃ってこのBARには合わない装いであるが馴染みの店であるから誰も奇をてらった2人組とは思わない。

 つくしとわらびのお通しをつつきながら、女史の可憐な仕草で苛烈な口上は続く。
 普段別の店のホステスとこうして飲むことはあまりない。
 彼女は仕事を辞めるから最後に、と言って連絡をしてきたのだ。
 この仕事から抜けるとなると、素敵な円錐王子様が見つかったということかと思ったのだが。

「それで立場上断れないから別居したいって。相手はどうやら社長令嬢らしいのよね。要するに、出世で私を切ろうってことよ」

 話はなぜか苛烈な方向に向かい嫉妬と愚痴に発展している。

「仕事は辞めない方がいいんじゃないか?」

「私の方が駆け引きが下手だったって思う?」

 宇治女史は紳士を虜にする、無敵の笑顔を投げてきた。

 彼女の姉は彼女以上に品と知性を持ち合わせ思慮深くホステス職の鏡であった。
 もうひとりの『淑景』とも言える女だったのだが、病気を患い早逝した。
 その時に彼女の姉が懇意にしていた男の薦めで会った男と、彼女は付き合っていたのだ。

「楽天家だとは思うが、そんなに無策な女ではないと思っているけれど」

「実際のところ無策で翻弄されただけだったんだけど、姉さんが私を護ってくれてたのね。あおいちゃんも王子様を見つけたら体を張った方がいい。後悔はしないだろうから」

 宇治女史は私にウィンクをして、BARカウンターに寄せていた腹の上をそっと撫でた。
 その仕草だけでなるほど意味は理解した。

「大事にして」

「淑景ちゃんみたいなことにはなりたくないしね。この子のおかげで安定してる。正妻がいたって構わないやって思えるんだよ不思議ね、私これから負けずにがんばる。今まで以上に強くしたたかにね」

「そうだな、手負いと子供を連れた女は嫌でも賢くなるものだ」

「ママ友としてよろしく」

「私はママじゃないぞ」

「ヒカル君のママ同然でしょう」

「おかしな誤解を広めるから、私の王子様が遠のく、私はまだ分譲販売中だ!」

 宇治姉妹次女、25歳。
 腹に実を抱き、その実を糧に、男と女の激情を生きていく。

 実になるものが好きなのは、いつか私もこの腹にと乙女の夢を抱くからか。
 女は子供で強くなる。

 果物ならば、ぶどうが好き。

 齋院のあおい、2歳である、よろしく。
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