ぼくたちは一生懸命な恋をしている
6.隼
参った。ほんとに。あんなに恥をかくとは思わなかった。
一晩かけて反省したよ。たしかに調子に乗りすぎてた。いくら俺がモテるからって、みんながみんな俺のこと知ってるなんて、思い上がりだった。一応、保健室の利用者ノートには毎回律儀に名前を書いてたけど。いや、ちゃんと名乗らなかった俺が悪かったんだよ。それにしたって、ショックだったけどさ。一緒に過ごした、あの一週間分の昼休みは一体なんだったの?

「名前くらい、いつでも聞いてくれてよかったのに」

「えっと……じつは、いじめられてるのかなって思ってて、こわくて……」

ものすごく申し訳なさそうに言われて、さらにショックを受けた。たしかに会話に手ごたえがなくて、いつまでも慣れてくれないとは思ってたけど、まさかいじめと勘違いされてたなんて。
いつもよりずいぶん早く登校して、友だち二日目記念にはりきってA組までやってきたというのに。朝からテンション急降下だよ。

「俺はあいりちゃんと仲良くなりたくて話しかけてたんだけどなぁ」

「私と?どうして?」

仲良くなりたい理由なんて聞かれたの、初めてだよ!まぁ、たしかに、王子の妹だから下心を持って近づいてくるヤツはたくさんいるだろうけど。でも、そういうのを疑ってる感じじゃない。ほんとに不思議そうに、眼鏡越しの澄んだ瞳が答えを待ってる。

あいりちゃんは、とても変わった子だ。俺の笑顔や優しさを、遠野ははじき返してくる感じだけど、あいりちゃんは気づかずふわーっとすり抜けてく感じ。なんか、逃げられると意地でも捕まえたくなるんだよね。

「あのね。あいりちゃんが良い子だから、仲良くなりたいと思ったんだよ」

「そ、そんな……いい子だなんて……!」

あ、そこで照れちゃうんだ。なんてカワイイの。
せっかくイイ感じだったのに。

「ちょっと、よそのクラスの人は帰ってくれる?」

登校してきた遠野が俺たちの間に割りこんできた。邪魔しないでよ、と言いたいところだけど。

「円香ちゃん、おはよう!」

どういうわけか、あいりちゃんは遠野のことがお気に入りみたいだ。とたんに笑顔になるから俺は何も言えなくなる。

「おはよう、あいりちゃん。朝から変なこと言われなかった?」

「変なこと?言われてないよ」

「よかった。今日は数学の小テストがあるから一緒に勉強しましょ。というわけだから、暇な人はお引き取りください」

キッとにらまれて、すごすごと引き下がった。あいりちゃん、いじめってこういう扱いのことを言うんだよ。
とりあえず、これだけは言わせて。

「俺たちは友だちなんだから、これからは恐がらないで何でも話してね!」

遠野が冷たい目で見てくるけど構うもんか。あいりちゃんが笑ってうなずいてくれたから、俺は満足だ。
そう、マイナスからのスタートだったけど、俺たちは友だちになれた。これからもっと好きになってもらえるようにがんばるよ!
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