ぼくたちは一生懸命な恋をしている
あいりちゃんはA組。俺はF組。A組は南棟に、F組は北棟にある。ちなみに職員室とか保健室は東棟で、理科室や音楽室みたいな科目専用教室は西棟。この学校の校舎は四つの建物でできてる。全部の建物がつながってるから道はいくつかあるけど、俺がA組に行くときは、いつも南棟と北棟をつなぐ渡り廊下を通る。そこが一番近道だから。

側面がガラス張りの無駄にオシャレな渡り廊下を歩いてると、天の川が思い浮かんだ。恋しい人のもとへ渡る道。同じ学校の中、他の教室までの道のりさえ遠く感じるなんて言ったら、年に一度しか会えない織姫と彦星に怒られるかな。でもほんとのことだよ。行きはワクワクして、帰りは切ない。あいりちゃんと同じクラスだったら、もっとたくさん一緒にいられたのになぁ。遠野ばっかりずるいよ。

北棟に入ってすぐの廊下で、男子が数人集まって盛り上がっていた。スマホを高速でタップしてるからアプリゲームで遊んでるんだろう。その輪の中心に王子がいた。王子はE組で、俺の隣のクラス。女の子だけじゃなくて男子にも人気なんだなぁ。感心しながら通り過ぎようとしたら、思いがけず王子と視線がぶつかった。
目が合ったのは初めてだった。やっぱ、めっちゃイケメンだ。瞳が綺麗すぎる、吸引力がハンパない。目をそらせなくて時間が止まった。

実際には、すべてはほんの一瞬だったんだろうと思う。

足が止まって固まってしまった俺に向かって、王子がにっこりと笑った。
え、なんで?今ゾクッとしたんですけど。テレビや雑誌で見るままのさわやかスマイルをもらったはずなのに、どうして冷や汗が出てくるの。居心地が悪くて、すぐに視線をそらして教室に逃げこんだ。

扉にもたれてバクバクと鳴る心臓を押さえていたら、近くにいたクラスメイトの優菜ちゃんが不思議そうに見上げてきた。小動物みたいで人懐っこいカワイイ子だ。

「秋山くん、どうしたの?なんか慌ててる?」

「ううん、ちょっと、王子と目が合ったらドキドキしちゃって」

「えー、恋?」

「そんなわけないでしょ」

「わかるよ、かなで王子はカッコイイもん。好きになっちゃうよねぇ」

「だーから、ちがうってば!」

わざと怒って見せたら、優菜ちゃんは「ふひひ」と独特の笑い声を残して友だちのところへ逃げていった。しようがない子だなぁ。でもちょっと落ち着いた。

ところで。チクチク刺さる視線が、いつものことながら鬱陶しいね。
窓際の席で本を読んでるフリしてる鈴木君、優菜ちゃんが好きなら俺をにらむんじゃなくて本人に話しかけないと気持ちは通じないよ。それから教室の後ろのほうで円陣組んでるメガネ男子三人組、俺が女の子と会話するだけでいつも文句を言ってるよね。
キミたちは、とんだ愚か者だ。
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