記憶 ―惑星の黙示録―


私は焦って周囲を見回す。

出掛ける準備…


いつも無駄に荷物の多い私。

必需品の携帯に、
ストレスから始まった煙草に、
車と自宅と職場の鍵が幾つも付いたキーケース。

化粧ポーチに、
それに、ぶ厚い手帳…
それから、それから…

それは、いつもの癖。

いくら部屋を見回しても、
その大きなカバンが在るはずもない。

私は単身でここへ来たんだ。

持っている物と言えば、
身に付けている服と、長年愛用の腕時計。

ズボンに忍ばせた綺麗な音の鳴る鈴…

役に立つ物は無い。


ワン!
『ナオ~早くしろよぉ。いいから、いいから!』

「奈央~!?」

よく分からない状況のまま、
全員に急かされて、バタバタと部屋を後にした。


いつも右肩に掛けている、ずっしり重いカバン。
あれが無いだけで、
不安だった。

…戦えない気がした。


考えてみたら、
…起きてそのまま。

顔も洗わず、髪もとかさず。
化粧も落とさずに昨夜寝てしまっているわけで、今どうなっているのか…。

それは、考えない様にしよう。

だけど、
どこかに…鏡ないのかしら。


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