楽園の炎
第十章
神官による最終裁可は、神殿前の広場で、神官たちの朝の祈りが終わった頃から始まる。
重罪人の裁判のため、重臣たちも皆列席する決まりだ。

朱夏は寝台の上で、のろのろと身体を起こした。
気づいた桂枝が、すぐに水盆を持ってきてくれる。

顔を洗っても、朱夏の表情は相変わらず心ここにあらずの状態だ。
着物を用意すると、素直に着替える。
着替えが終わると、またすとんと寝台に腰を下ろす。

その動作一つ一つが、まるで良くできた人形のようで、桂枝は悲しくなった。

「朱夏様。さぁ、スープだけでも、召し上がってくださいませ」

アルが持ってきた朝餉のスープを差し出す。
朱夏はスプーンを手に取ったものの、口には運ばない。

始めて朱夏が、ちら、と桂枝を見た。
心配そうな侍女の表情に、朱夏はスプーンを口に入れた。
が、すぐに咳き込み、吐き出してしまう。

「ああ朱夏様。しっかりしてくださいませ。頼みの綱のナスル姫様も、朝から何か大切な話し合いで、皇太子殿下の元に上がっております。でも、例えナスル姫様や皇太子殿下に訴える機会を与えられても、やはり葵王様の、朱夏様への想いを言上できない以上、事態は何も変わりますまい。かといって、そのことを申し上げれば、ナスル姫様と葵王様のお顔を潰すばかりか、下手をするとククルカン皇帝の勘気を被り、国家の危機にも発展しかねませぬ」

いつでも元気だった朱夏をずっと見てきたせいか、あまりの朱夏の変わりように、桂枝はとうとう泣き崩れた。

足元に蹲る桂枝に、朱夏は少し自我を取り戻した。
とにかく食べなければ、と、無理矢理スープを口に入れる。

食べなければ、何か思いついても動けない。
そう思い、朱夏は嫌がる身体に無理矢理スープを流し込んだ。
< 147 / 811 >

この作品をシェア

pagetop