楽園の炎
裁判は、日も高くなった頃に始まった。
神殿前の広場に、アルファルド王、葵をはじめ、炎駒などの重臣がずらりと並び、周りは兵士らが固めている。

朱夏も、当事者であるし、何より葵のお付き武官である。
葵の少し後ろに立った。

正面に立った神官が打ち鳴らした杖の音を合図に、広場の端からユウが引き出される。
朱夏は首に下げた短剣に、震える手をやった。

広場の中央で立ち止まったユウは、神官を見上げた。
後ろ手に縛られ、首にかけられた縄は、引き出してきた兵士が握っている。

久しぶりの太陽に、眩しそうに目を細めるユウを、朱夏は食い入るように見つめた。
少し痩せたようだ。
裸足だし、身体も着ている物も汚れているが、唯一強い漆黒の瞳が、真っ直ぐに神官を見上げている。

神官は、静かに罪状を述べた。

「この者、アルファルド王太子を弑逆(しいぎゃく)せんと外宮に忍び込み、王太子・葵王様を昏倒させ、一の側近・炎駒殿のご息女を、口封じに誘拐しようとした罪あり。これより最終裁可を下す」

空恐ろしい内容だろうに、ユウは、ふん、と鼻を鳴らした。
神官が、杖でユウを指す。

「何か申し開きすることでも? 言いたいことがあるなら、言うがいい」

ユウは、ちら、と葵を見た。
朱夏は思わず身を乗り出しそうになる。

葵の後ろとはいえ、朱夏の立っているところは、少し低くなっている。
他にも沢山人が詰めているので、朱夏には気づかなかったかもしれない。

あるいは、葵を見たわけではなく、単にその方向に、顔を向けただけかもしれない。
ユウは特に何の変化も見せず、神官に視線を戻した。
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