渇いた詩
久弥がどっちを選ぶか、なんとなくわかってる。



「桜……ごめん、こんな大事なこと言わないで……」


久弥はあたしの隣に座りキツクキツク、あたしを抱き締めた。



「本当……だよ。あたし、びっくりしっぱなしなんだからっ……」



「桜、俺は……」



あたしも強く抱き締めた。



多分、これが最後の久弥の温もりになるから。



「バンドは捨てられない」



やっぱり……。



わかってた。



歌が好きで、好きで。



何年も何年も、歌い続けてる久弥。



あたしを選ばないことくらいわかっていた。



「ごめん……」


「謝らないで……。久弥、これで良いんだよ。バンドは久弥にとって大事な場所なんだから……。絶対に手放しちゃダメ」



「ありがとう……。桜を好きになって良かった」



あたしも、短い間だったけど久弥に愛されて幸せだったよ。
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