AZZURRO
その夜

クリスはジャンに呼び止められた


「なんだ?」


クリスはしぶしぶ書斎に戻る

「クリス様。
今日のあれはいったい何ですか?」


「アレとは?」

「とぼけるのもいい加減にしてください。
いくらユキノ様が可愛いからと言って…
あのよな事を許されては
ユキノ様は図に乗ってしまいます。」


頭を抱えるジャンに
クリスは笑みをこぼした


「図に乗るような娘じゃないから
許したんだ。

市民にはいまだに貧困がある。
その中でケシャの様な生活をしている
民は五万といるだろう。

だからこそ
ケシャの様な民は切り捨ててはいけないのだ。

貧困の民を助けることは
やがて帝国の富みに繋がると私は信じている。」


力強く言い放ったクリスに
ジャンは納得したようにため息をこぼした

「まったく…
クリス様には敵いませんね。」


「だてに長い付き合いじゃないからな。
ジャン説教の逃げ方も上手くなるよ。」

「さようですか。
ならば、説教などいらないように
なってほしい物です。」


夜が深まっても
クリスの書斎の明かりは消えることなく

低い笑い声が響いていた
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