秘密
◇第2話◇
◇◇◇




佐野君との約束の前の夜。

私は鏡とにらめっこしていた。


明日何着てこう?


部屋に洋服をあるだけ引っ張り出し、ベッドの上に大量に積み上げていた。


春らしい白のワンピースに手を伸ばしかけた時、机の上に置いていた携帯が振動した。


心臓がドキリと跳ね上がる。


佑樹じゃないよね?


恐る恐る携帯を手に取る。

着信ではなくメール。

とりあえず胸を撫で下ろす。


開いて見ると佐野君からのメール。


今度は心臓がギュッと締め付けられた。


……佐野君。


数日前のあの図書室での出来事を思い出す。


佐野君の抱き締めてくれた腕がとても心地よくて。


琥珀色の瞳がとても優しくて。


触れた唇がとても暖かくて…


今思い出しても胸がドキドキする。



メール。
明日の事かな?
まだ時間とか待ち合わせ場所とか決めてなかったもんね。


携帯を開きメールを確認する。


『明日の11時
駅前通りのコンビニ

あと服装は厚手のジャケットかジャンパーで

下はジーンズか長めのパンツ着用

靴はなるべくスニーカーで、ヒールはダメ

バッグはなるべく小さめ、たすき掛け出来るモノで。

以上よろしく』



……は?


服装指定?
バッグも…

山歩きでもするつもりかな?


私は携帯を持ったまま、ベッドの大量の洋服をチラリと横目に見る。


……はぁ…

何浮かれてれるんだろ?私…


『うん。わかった

また明日ね』


返信して携帯を閉じる。


ベッドの上に置かれた洋服を片付け始めた。


その中からスキニージーンズと普通の水色のロゴTを取り出す。

…これでいっか。

急にやる気をなくした私。

明らかに普段着。


浮かれてお洒落しようとしてたくせに。


考えてみれば、お洒落しても意味ないよね?

見つからないように、こっそり会わなきゃいけないのに。



…私…バカみたい。





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