妻と愛人、どちらをとるべきか?
 
 彼女はシングルマザーの道を選んだ。
 
 ……というより、最初からそのつもりだったようだ。
 妻子を捨てて離婚し彼女と再婚するという選択肢もあっただろうが、彼女はそれを望まなかった。
 堕胎という選択肢は、2人の性格上、有り得なかった。
 元々、不倫や愛人という要素とは無縁な女性だと感じていたが、彼女はそういった世俗のことは超越した次元にいるのだと実感した。
 育児雑誌を読んでいる彼女の横顔は、いつか京都の寺で見た観音菩薩像の微笑みと重なった。


 3か月前。
 彼女との間に生まれた娘がめでたく1歳になった。
 まだ、アーとかブーとか言うだけだが、ときおり浮かべる笑顔は母親によく似た優しいほほえみだった。
 彼女は、絵にかいたような素晴らしい母親だった。
 比べるのもなんだが、長男が1歳になる頃の妻といえば、寝不足の上、初めての育児に悩みながら、昼夜問わずキレまくっていた。
 いくらかわいい我が子でも、毎晩毎晩・何度も夜泣きで起こされれば、寝不足の母親がキレるのも無理はない。
 しかし、彼女はキレるような素振りもなく、目の下にクマをこしらえて娘をあやしながらほほえんでいた。
 彼女の穏やかさは妻とは大違いだが、むしろ、妻が平均的で、彼女の方が特異なタイプではないだろうか。
 彼女に対して大きな安心感があるのと同時に、手助けをするような隙も危うさもないので、頼りにされていないような複雑な気持ちだった。



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