アザレア
「くれぐれも無理はしないでね」

日中をパジャマ姿で過ごす生活にも慣れて来た頃。
長いようで短い入院生活が終わりを告げ、部屋で荷造りをしていた私に看護師さんが声を掛ける。


この看護師さんとも、随分長い付き合いになってしまった。
そして――この病院とも。


入院した時は鞄一つだったのに、退院する今は両手でも抱えきれぬ程。

病院から贈られる御祝いの品は元より、他の何にも換えられやしない、大切な宝物がこの腕の中にあるのだから。


「そろそろ行きましょう。先程見えられていたの、きっと首を長くして待ってらっしゃるわ」

「そうですね」

生まれて間もない、私の分身。
すやすやと眠る我が子を抱ける事が、幸せだと感じるのは――きっと。
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