Prisoner of Love ~全ての恋愛が失恋だとしても~
序章 消せない夜
「ねぇ……教えてよ…」
私は、思っていた以上に逞しい彼の右肩に押し付けていた額を
起こし、その代わりに背中へと両手を伸ばす。
喉が、声が、震えているのが自分でも分かる。
今の私がどんな顔をしているのか見られたくなくて、
私は彼の背中に廻した両手で彼にきつくしがみついた。
微かに、彼の真白いワイシャツに爪が擦れる音がした。

窓の外には降りしきる雨に濡れた地上の星々。
ネオンライトが消える事なき不夜城。
地上36階、スーペリアツインの部屋の窓際で
彼の肩越しに見えた夜景がじわりと滲む。
「――教えて……」
滲むばかりの視界を私は目蓋を閉じて掻き消し、
祈るように尋ねる。
頬を流れ伝う透明な雫が彼のワイシャツにまで滲んで行く。
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