秘書室の言えなかった言葉
言えなかった言葉

 知里 side

「好きです……。あの……、私と付き合って下さい」


顔を赤らめ、目を潤ませ、そして上目遣いで告白をしている女性社員。


「ありがとう。だけど、僕、君の事よく知らないから。ごめんなさい」


表情一つ変える事なく、そして考える間もなく、断る男性社員。


「いえ……。いきなり、すみませんでした」


そう言って、女性社員は今にも泣き出しそうになりながら、男性社員の前から走り去って行く、この光景。


私は何も見ていない。

何も聞いていない。


そういう事にして、気付いていないフリをし、その場を立ち去ろうとする。


「あっ、園田」


だけど、私に気付き、笑顔を見せる男性社員。


社長秘書をやっている私の同期

倉木 英治(くらき えいじ) 30歳

うちの会社では、社長に次いで人気の倉木。

いわゆるイケメン。


タイプ的に、社長はいつもにこにこと笑顔で、見るからに優しそうで爽やか系。

倉木は特定の人には笑顔を見せるが、その人達以外には、ほぼ笑顔を見せる事がない。

まぁ、飲み会とかでは、その場に合わせて、にこやかにはしているけど。

特定の人以外には、あまり笑顔を見せる事のない倉木だけど、元々整った見た目をしているから


「真面目な所がいい!」

「クールでカッコイイ」


と言われている。

もちろん女性社員から人気で、今みたいに告白してくる子も多い。

まぁ、倉木はそれを片っ端から、さっきみたいに表情を変えずに断っているけど。


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