今宵は天使と輪舞曲を。
Act Ⅰ・それぞれの事情と思惑。

§ 01***問題多きブラフマン伯爵家。




「いいこと? ラファエル。このブラフマン邸で三週間後に開くパーティーはキャロラインの社交界デビューなのですからね。次こそ(・・・)は逃げてはなりませんよ!」

 レニア・ブラフマンは人差し指を顔の前に突き出すと籐椅子から身を乗り出した。彼女は眉間に皺を寄せ、今年で二七になる二人目の息子、ラファエルに告げた。

 それというのも彼は社交パーティーが始まるやいなや、すぐに姿を消してしまうからだ。


 年頃の男子が女性と消えるのならば――それはそれでまあ、少なからずとも問題ではあるが、レニアにとってはその方がいくらかましだった。というのも、ラファエルは女性という存在にまったく関心を示さないからだ。

 レニアにとってラファエルは頭痛の種だ。そしてラファエルもまた、レニアはまさしくそれだった。

 ラファエルはいつものことだとレニアの言い付けに目をぐるりと回し、この世の終わりだと言わんばかりに長い溜息をついた。普段のレニアはとても寛容な性格なのに、女性や結婚に纏わることになると態度が一変するのだ。

 そんなラファエルの隣では、三歳年上の兄、グランが母親と弟の態度を見比べてニヤニヤ笑っている。しかし、グランもけっして他人事では済まされない。ラファエルは形のよい眉を吊り上げて凛々しい兄を横目で捕らえた。


 ――そう。レニアがここまでげんなりしているのには、それなりに深い理由があった。ラファエルだけではなく、長男のグランまでもが、聖職者(けっして女性と関わりを持たない者)に成り果てているからだ。


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