「十六夜さん…居ないの?」


自室に戻った息吹が室内を見回して声をかけても返事はない。

縁側に出て空を見上げると真っ赤な夕焼けが綺麗で、息吹は無意識に帝に触れられた右手をごしごしと擦っていた。


「手が真っ赤になっているではないか」


「え…、あ、私またやっちゃってたんだ…」


小さくため息をついた息吹の隣に晴明が座り、今夜起こることは息吹には秘密なので、ごろんと横になった。


「明日からはもう御所には行かなくていい。私が話をつけておいたからね」


「!本当ですかっ?父様、ありがとう!…でも…十六夜さんは?」


「…そなたが寂しがるだろうと思って契約を延長しておいたよ。だが、ずっとあれとは一緒に居れないからね。…妖だから」


――帝にも言われた。“妖憑き”だと。


“十六夜”は妖。

しかも晴明と対等に話せるほどの大物の妖だ。


「主さまを知ってるって言っていました。私…小さな頃に十六夜さんに会ったことがあるのかも」


「さあどうかな。食事をしようか。…夜は忙しくなるからね」


「え?」


息吹には聞き取れなかったが、もう御所には行かなくていいことと、今後も期限付きながら“十六夜”と会えることが嬉しくて、いそいそと台所に向かった。


「今日は腕を奮いますね」


「それは嬉しいね。お守りでくたびれているだろう道長も呼んでやろう」


式を飛ばしてのんびりしていると、先程主さまの元にやっていた鳥型の式が帰ってきて紙に戻るとそれを開き、書かれた内容ににやりと笑んだ。


「よし、準備は整ったな。“寝静まった頃に決行”か。ではそれまで私も眠るとしよう」


――しばらくするとくたくたの道長がやって来て、晴明の背中に泣きついた。


「気持ち悪いからやめてくれないか」


「帝がご立腹で大暴れだ…俺にはとても止められなかった…」


「ほう、友人のそなたでもか。あんなに女御や女房が居るのだからその中から選べば良かろうに。優男ななりをして色ぼけだな」


「お、おい晴明…言い過ぎでは…」


「息吹はやらぬ。婿候補は決めているからな」


「な、なに!?」


道長、勘違い。

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