雨と傘と

朔人⑥

兄貴は、幸葉を手放すつもりでいる。

これは間違いない。そして、そうさせているのは間違いなく俺の存在で、そんな自分が情けなく思う。

身を引くべきは、俺なのに。

幸葉を諦める決心がつかなくて、なかなか兄貴に話を切り出せずにいた。





土曜日は雨で練習が中止になった。
仕方なく、出された宿題を片付けているところだった。

「朔人、ちょっといいか。」

ノックと共に入ってきた兄貴は、ベッドに腰掛けた。

「少し、話をしないか。」

そう言った兄貴を振り返ると、微笑んでいた。

「うん、俺も話があるんだ。」

「そうか…幸葉のこと、だろ?」

「うん…」


言葉に詰まる俺を優しく見ると、少し困ったように笑って、


「幸葉を諦めようと思う。」


いつもと変わらない口調でそう言った。俺が言えなかった言葉をそのまま、さらりと言った。


「…な、んでだよ。俺には譲れないんじゃなかったのか。」

「そう思ってたんだけどな…。俺は、あいつを支えられないと感じたんだ。」

「え…」

「学年が違だけで、こんなにも共有する時間が短いとは思ってなかった。学校にいればいるほど、傍にいる時間が少ない。…お前らの教室に行くたびにそう思ってた。」


あんなに楽しそうに過ごしていた昼休み、そんなことを思っていたのかよ。直視できずにいた俺は、何にも分かっていなかったんだな。
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