高天原異聞 ~女神の言伝~

4 不可思議


 日曜日の雨の図書館は利用者も少なく、いつもよりいっそう静かだった。
 今日は司書教諭の山中も休日出勤で、たまった仕事を片づけている。
 穏やかでひっそりとした時間が流れる。
 カウンターに座りながら、古い本の情報をコンピュータに打ち込んでいく。
 仕事がはかどり、一段落つくころにはもう昼だった。

「藤堂さん、午後からカウンターには私がいるから、書庫の整理をお願い」

 そう言われて、美咲は喜んで頷いた。
 交代で昼食をとると、美咲は台帳を片手に書庫へ向かう。
 引き戸を引くと、それまでとは違う少しひんやりした空気がまといつく。
 書架の並ぶ細い通路を進むと、右手には十段ほどの階段がある。
 上りきると、中二階ほどの高さにまた規則正しく書架が配置されている。
 今日はこの二階の蔵書整理だ。
 書庫の本の整理は、美咲には本の返却に次いで好きな業務である。
 黙々と古い台帳と照らし合わせて、廃棄本を物色し、空きスペースを作り、そこにまた新たな本を入れていく地味な仕事だが、なぜか美咲には心安らぐ作業だ。
 時間の経つのも忘れて、美咲は作業に没頭した。
 慎也のことさえ、考えることもなかった。




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