王子様は囚われ王女に恋をする
憎むべき相手
目が覚めると、白い天井が目に入った。

「…夢を見ていたのね」

幼いころの懐かしい夢を見ていたようだ。

アリシアは体を起こすとぼんやりと周りを見回した。

腹部に感じる鈍い痛みと見慣れない部屋の様子に
一気に目が覚める。

「ここは…?」

必死で記憶をたどると
城で見た惨状とスカイブルーの瞳がよみがえってきた。

「お父様っ…お母様っ」

こみあげてくる絶望と悲しみに嗚咽が漏れる。

「アリシア様、お目覚めですか?」

聞きなれた声の主に顔をあげると
侍女のイライザがホッとしたような表情をしていた。

「ずっとお目覚めにならないので心配していたんです。
本当によかった」

「イライザ、ここはどこなの?!」

「ここは…セナール王国の城でございます」

セナール王国の城…。

その言葉を聞いた瞬間に「捕虜」という言葉が頭に浮かんだ。

「私たち…捕まってしまったのね」

シーツをギュッとにぎりしめてうつむいたアリシアに
イライザは言いにくそうに告げた。

「アリシア様がお目覚めになったら
カイル様がお会いしたいとおっしゃっていました」

「カイル王子が…?」

広間で両親の亡骸のそばにいたカイルの姿を思い出し
憎しみがわき上がってくるのを感じる。

「アリシア様、カイル様から着替えを渡されたので
これにお召しかえください」

ふと自分の着ているドレスを見ると
あちこちが破れ、血も付いていた。

このままの姿でも構わないと思ったものの
一国の王女がこんな姿では見下されると思い
しぶしぶ着替えることにした。

用意されていたのは、エメラルドグリーンのドレスだった。

「アリシア様の瞳の色と同じですね」

ドレスを身に付けたアリシアを見て、イライザがつぶやく。

「とてもお綺麗ですよ」

「…ありがとう」

綺麗なドレスを身につけても
もう以前のように喜びも感じられない。

両親を失った今
敵に生かされている捕虜にすぎないのだ。

「イライザ、行きましょう」

アリシアは決意を固め
カイル王子の待つ部屋へ向かった。

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