妖(あやかし)狩り・弐~右丸VSそはや丸~
第三章
 左大臣家に入ると、女官は真っ直ぐに右丸の元へと向かった。

「右丸、具合はどうです」

 粗末な狭い部屋で、藁にまみれて転がっている右丸の横に座り込み、声をかける。
 見たところ、顔色も悪いわけではない。

 ただ、己を抱くように丸くなって、苦悶の表情を作っている。

「ふぅん? あんまり良くない状態だなぁ」

 のんびりとした低い声に、女官は息を呑んで飛び上がった。
 勢い良く振り返ると、いつの間にやらそはや丸が女官の後ろに立ち、肩越しに右丸を覗き込んでいる。

「っな、なな・・・・・・そ、そはや丸っ。いつの間に・・・・・・どこにいたのです」

「細かいことは気にすんな。人より容易に屋敷内に入れるって言ったろ」

 それより、と、そはや丸は不意にずいっと女官に顔を近づけた。

「気安く呼ぶんじゃねえ。大体お前は何者だ。名も名乗ってないぜ」

 不気味に光る漆黒の瞳に見据えられ、女官は顔を隠すことも忘れて固まった。
 先程の驚きも手伝って、冷や汗が背中を伝う。

「けっ。態度ばっかでかくて、全く礼儀のなってねぇ女官だな」

 冷たい一瞥を残し、そはや丸は右丸の傍に屈み込む。
 屈辱で、女官は顔を真っ赤にしながら、渡殿を走り去って行った。
< 33 / 69 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop