美味しい時間

天井を見つめボーっとしていると、聞きなれない着信音が携帯から聞こえて
きた。びっくりして飛び起き、慌てて携帯を手に取る。

「お母さん……」

お正月に帰省してから、一度も連絡を取っていない。なかなか電話してこない
娘にしびれを切らしたのか。でもタイミング的にはちょうど良かった。

「もしもし、お母さん」

『あっ百花、起きとった?』

「当たり前でしょ。もうこんな時間よ」

大好きな母の声を聞いて、胸の奥に潜んでいた痛みが、少しづつ浮上してきて
いた。

『仕事行く前の忙しい時に、ごめんね』

「…………」

昨晩は一粒の涙さえ出て来なかったのに、瞳いっぱいに涙が溜まってきて
しまった。もういつ溢れ出てもおかしくない。
気づかれないように泣き声を押し殺していると、母の優しい声が私の涙や
思い、全てのものを一気に溢れだしてしまった。
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