「ここです!いい雰囲気でしょ?」



田所さんが連れてきてくれた喫茶店は、定年を迎えた老夫婦が最近始めた店らしい。


『砂時計』というこの店の名前も、とても気に入った。


近いのに、全く知らなかった。



観葉植物がたくさんあり、朝なのに薄暗い店内はとてもお洒落で、老夫婦の趣味だとは思えないくらい今風だった。


荒い木目のテーブルは、どれも違う形をしていた。

運ばれた水を一気に飲んだ田所さんは、私の視線に気付き、照れ臭そうに笑った。


「コーヒーでいい?ここのコーヒーは最高なんですよ!」


田所さんは、右手の人差し指と中指を立てて、カウンターの向こうのマスターに言った。


「ホット、二つ!」


65歳を過ぎたくらいの年齢に見えるおじさんが、軽く頷いた。


田所さんは、ここへ誰と来るんだろう。




私が、バスを勝手に降りたことを心配すると、田所さんは思い出したかのように携帯電話で職場に連絡をした。



シンプルな携帯電話も、また好感が持てた。

黒い携帯電話には、ストラップもついていない。


この携帯電話で、私と繋がっていたんだ。



田所さんは、急用ができた為午前中は休み、昼から戻ります、と言った。



この人は嘘が苦手な人だ。


低い渋い声が少し裏返っていて、彼を好きな人ならその嘘を見破るのは簡単ではないかと思う。









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禁断  不倫  主婦  嫁姑  ドロドロ  ときめき 

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