愛は満ちる月のように
美月は悠より七歳も年下だが、本当に冷酷な人間をたくさん知っていた。

彼らは揃って『自分は優しい』と連呼する。そして、自分の感情は大事にするが、他人の感情にはお構いなしだった。



「“藤原美月”に戻りたい訳だ……」


そう言った悠の声はなぜか打ち沈んで聞こえる。

思わず、


「どうかしら……“藤原”も“桐生”も借り物のような気がするわ。私は……自分が何者か知らないのよ」


美月も正直に答えていた。

それは自分でも信じられないほど頼りなげな声――。


「美月ちゃん?」

「なんでもないわ。大丈夫よ……ほら、信号の向こうにホテルが見えるじゃない。ここまで送ってくださってありがとう。離婚届は私が用意しますから……じゃ」


美月はぶつけるように伝える。

このままだと、また悠を頼ってしまいそうだ。美月はそんな自分が卑怯に思え、慌てて離れたのだった。


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