シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

・探索 煌Side

煌Side
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ハンドルの中央には――

黄色と赤と黒を背景色にした黒馬の紋章。



車体は鮮烈な真紅色なのに、車内は無機的な黒レザー。


左ハンドルの運転席周辺は、メタルシルバーの色合いが多くなり、黒と銀のクールな組み合わせが、"漢(オトコ)"という雰囲気で格好いいと思う。


外観はあんなに曲線美なのに、中身はがらりと違う。


スポーティでメカニック。

機能性を求めた、ハイスペックな機械が埋め込まれている感じ。


整然と並んだボタンがやけに多いし。


訳が判らないボタンを見ただけで、俺の興奮は止らねえ。



「先刻から何ですか?

非常に、運転しにくいんですが」



朱貴はそう言いながら、合金製のシフトレバーを動かす。


後部座席にいる俺は、真ん前の小猿の座る助手席を後から抱きしめながら、じぃっと朱貴の運転…よりも運転席そのものを見ていた。


「この車さ、ボンドカーじゃねえよな」


玲が乗ってたボンドカーとは大分デザインは違うけれど…高級そうなのは間違いねえ。


案外新種のボンドカーかも知れないし。


ボタンが沢山あるから、このうちの1つぐらい押したら…何かが仕掛けが発動したりしないんだろうか。


「手を引っ込めなさい!!!

……ボンドカーって何ですか」


ボタンを押そうとした俺の手をぱしりと叩き払った朱貴が、続けて訝しげな声を返した。



「ああ、ジェームスボンドの乗ってる車」


「……。それはどちら様で?」


「は? 知らねえの? "007"のことだぞ」


「"007"?」


驚きだ。

此の世で、あんなに有名なジェームスボンドを知らない奴がいるなんて!!!

朱貴は結構世間知らずだ!!!


「イギリス情報部の諜報員。コードネームが007。任務遂行中は容疑者を殺してもいいっていう、"殺しのライセンス"を持っているんだ。今は何代目だったかな」


俺しか知らない情報だと思えば、俺は鼻高々で。

ああ、これから会う情報屋ってのも、毎度こういう気分を味わっているんだろうか。


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