愛を教えて ―背徳の秘書―
「私は契約社員ですので、比較的自由が利きますから」


香織は眼鏡越しに、実直そうな笑顔を作り宗に向かって微笑む。

それにカチンときたのが朝美だ。


「志賀さん、勝手に決めてもらっては困るわね。秘書室の責任者は私なのですから。宗さんのおっしゃるとおり、新人の広瀬さんに行ってもらいましょう」


言葉にはしないが、契約社員の分際で、という口調がありありだ。しかも、宗を挟んで負けたくないという思いが見え隠れする。

だが、それは香織も同じであった。


「お言葉ですが……広瀬さんは専務秘書の仕事を覚えるために、午後から大阪に同行されるはずでは?」


言い方はソフトだが目は冷たい。いや寧ろ、香織の瞳には嘲笑に近い色が浮かんでいた。


一瞬、朝美の頬が引き攣る。

だが、すぐにアルカイックスマイルを取り戻し、手帳を繰り始めた。


「あら、そうだったかしら? では、橋本さんにお願いしましょう。どちらにしても、あなたが口を出すことではないのよ。志賀さん」


< 33 / 169 >

この作品をシェア

pagetop