愛を教えて ―背徳の秘書―
――コンコン。


秘書室と社長室を隔てる扉がノックされ、中澤朝美が入ってきた。なんと、彼女の後ろには志賀香織までいる。

宗の背中に冷たい汗が流れた。


「社長、奥様がいらっしゃらない、と……。あら、もうお越しだったのですね。失礼いたしました」

「お迎えが遅れまして申し訳ございません。奥様とお連れ様のお飲み物をすぐにお持ちいたします。温かいお茶でよろしゅうございますか?」


香織は両手を揃えて頭を下げた。

そして、万里子に向かって飲み物を尋ねる。妊婦にコーヒーはよくないと思ったのだろう。その辺の気遣いは朝美より香織のほうが上だ。


「ああ、秘書室で手の空いた者はいるかな? 用を頼みたいんだが」

「駄目よ、卓巳さん。それにケーキはひとり六個までと決まってるの。十二個買って帰るつもりだったから……わたしと雪音さんで寄って帰るから心配しないでください」

「万里子、君を路上に立たせるくらいなら、私はそのケーキ屋ごと買い上げるぞ」 


本当にやりかねない卓巳に、今度は宗が提案する。


「では、ひとり一緒に行ってもらい、奥様の代わりに雪音さんと並んでいただくのはどうでしょう? その間、奥様は車の中で待っていただいて。中澤くん、新人の子を……」

「私がご一緒させていただきます」


宗を遮ったのは、香織だった。


< 32 / 169 >

この作品をシェア

pagetop