桜が求めた愛の行方

4.とりあえず

ところが数日が過ぎても婚約破棄の話は
なかった。
それどころか着実に結婚の話が進んでいる?!

勇斗に連絡してみよう……
ううん、もし彼女との事で何か問題が
起きていたら私が出ていってややこしくしてはいけないわ。

さくらはもやもやとしたまま数日を過ごした。

ようやく話があるからスイートに来てくれと
彼に呼び出されたのは、あの日から1週間が
過ぎた日だった。

だめ押しの失恋を覚悟して、
さくらは部屋を訪ねた。

『勝手に座って』

憔悴した勇斗の顔を見て複雑な気持ちになる。
彼女との事、上手くいかなかったのかな?
聞いていいものか躊躇ってしまう。

『何か飲むか?』

『私がやるから座ってて』

見るからに疲れている彼を座らせ、
コーヒーを入れた。

一口飲んだ勇斗は、カップを不思議そうに
眺めた。

『なんで?』

『えっ?』

『俺がやるのとは違う』

『ごめんなさい、気に入らなかった?
 入れ直すわ』

様子からして、すでに何杯もコーヒーを飲んでいるはずだと思い、あえて薄めに入れたのが良くなかったのかも。

カップを取ろうとすると勇斗は
女ならば誰もが一瞬にして恋に落ちてしまいそうな蕩ける笑顔で私を見た。

『なっ、なに?』

体温が間違いなく上がった。
頬が熱い。

『うまい』

『そっ、そう。ならばよかった』

どぎまぎしていると彼は自分の隣を
ポンポンと叩いた。
気持ちを落ち着かせるためにさくらは
少し離れて座る。

『俺達は3カ月後、結婚する』

『そう』

コーヒーを飲みながら、世間話のようにさらりと言われて、つられて返事をした。

『おまえなぁ』

カップを置いた勇斗が苦笑いをして体をこちらに向ける。

『えっ?あっ!!俺たち!?』

『そうだよ、誰だと思って返事をしたんだ』

『それは……』

もちろん彼女でしょ?と言う前に
彼が謝るから、言えなかった。

『ごめん!!
 どうにも一方的な攻撃にあって。
 それに色々わかったし。
 なあ?おまえは俺との結婚、
 覚悟決めてたんだろ?』

そう言われて喜ぶべきか悲しむべきか
わからない。

でも続いた彼の言葉には確実に怒りを覚えた。

『とりあえず結婚しよう』

『なんですって!?とりあえず?!
 とりあえず結婚する人なんていないわよ!』

あんまりな彼の言い方に自分のことは棚上げにしてムッとしてしまった。
確かに私では不服でしょうよ、だからってそんな言い方はないわ。

とりあえず、ですって!?

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