桜が求めた愛の行方
両手を組んで、じっと考えていた勇斗が
さくらを真っ直ぐに見つめた。

『おまえ、馬鹿だろう』

『どういう意味よ!』

立ち上がって抗議すると、同じく立ち上がった彼が唐突に私を抱きしめた。

『ちょっと!どうしたの?!』

驚いて胸を押すと、更に強く抱きしめられる。

『あの計画だと、婚約の時のように
 おまえの卒業式の翌日には神父の前に
 連れて行かれたとしても、おかしくはなかっ た。それをおまえ一人が何もかもを
 背負って……』

さくらは謝罪を受け入れる為に、抵抗するのをやめて、彼の背中をぽんぽんと叩いた。

『おまえがフランスに行く理由に
 気づきもしないで、俺一人がのうのうと
 日本で暮らしていた』

『それは違うわ!
 フランスへの留学は婚約する前から
 決めていた事よ、
 それにもうパリは私の故郷も同じなのよ』

腕が緩んで、二人の間が空けられた。
彼を見上げる。
苦しそうな顔で見つめる瞳は、後悔でいっぱいの色をしている。

『すまなかった』

『やめて。それより私の方こそごめんなさい』

『なぜおまえが謝る?』

『結局こんな事になってしまって。
 でもまだできることはあると思うわ。
 私が何とかしてみるから』

何とかするということは、
藤木の家を捨てると言うこと。
ううん、家はどうでもいい。
パパの遺志を思うと悲しみが込み上げてきた。

舌打ちした勇斗の腕の中に、
再び閉じ込められた。

『そんな顔をするな、大丈夫だ。
 今度は俺が何とかするから』

優しく背中を上下する手に、
別の意味で泣きたくなった。
あの時の彼女と結婚すると言うの?

おじ様の会社も今は安定している。
私との婚約を破棄しても佐伯商事は
もう大丈夫だもの。

馬鹿なさくら。
あの時すでに失恋を味わったじゃない。
自分から進んで、二度もこんな気持ちを味わうなんて。
< 18 / 249 >

この作品をシェア

pagetop