クランベールに行ってきます


 携帯電話がどんな機能を持っていて、どうやって使うのかは説明できても、仕組みはわからない。本体の仕組みも通話の仕組みも考えた事などない。
 結衣はガックリと肩を落とした。

「……帰ったら、調べとく」

 ロイドはひと息嘆息すると、結衣を指差して恫喝する。

「いいか、わかっているだろうが、オレはヒマじゃない。くだらない用事や、イタズラでそのボタンを押してみろ。二度とそんな事をする気にならないような、お仕置きが待っていると思え」

 結衣はゲンナリして返事をする。

「はいはい」

 言われるまでもなく、わざわざロイドに電話でお話しするようなネタもない。どんなお仕置きなのか、想像を絶するセクハラのような気がして、考えてみる気にもならなかった。

「じゃあ、探検に行ってきます」

 背を向けて立ち去ろうとする結衣に、ロイドが軽い調子で忠告した。

「洗濯物置き場や、食料庫は覗かない方がいいぞ」
「なんで?」

 結衣が振り返って尋ねると、ロイドはニヤリと笑った。

「そういう人気のない狭い場所は、職場恋愛の巣窟になっているからだ。鉢合わせしたらお互い気まずいだろう」

 時々、給湯室に内鍵が掛かっているアレだろうか。結衣は一瞬絶句した後、吐き捨てるようにつぶやいた。

「……ったく、仕事しろっての!」

 足音も荒く立ち去ろうとする結衣に、再びロイドが声をかけた。

「そういう場所への呼び出しなら応じてやろう」
「絶対、呼ばない!」

 振り向きもせずそう叫ぶと、結衣は研究室を後にした。
 扉を閉める間際、ロイドのクスクス笑う声が聞こえた。
 やっぱり、からかって遊んでるんだ。そう思うと、何だかちょっと切ない気分になった。


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