クランベールに行ってきます
少し沈黙が続いた時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。ラクロット氏が応対に出て、すぐにジレットの所にやってきた。
「失礼します。ジレット様、ラスカーズ公爵がお帰りになるそうです」
「わかりました。すぐにまいります」
そういってジレットは立ち上がった。結衣も続いて立ち上がり、一緒に入口に向かう。入口で立ち止まると、ジレットは微笑んで結衣に挨拶をした。
「今日は突然お邪魔して申し訳ありませんでした。お話しできで楽しかったです」
「ボクも楽しかったよ。また、いつでも気軽に遊びにきてね」
「ええ、そうさせていただきますわ。それでは今日はこれで失礼します」
ジレットは笑顔で会釈すると、迎えに来た侍女と共に貴賓室を後にした。
後ろ姿を見つめたまま、結衣はラクロット氏に正体がばれた事を告げた。ラクロット氏はひどく動揺したが、結衣には妙な確信があった。
「大丈夫。あの子は約束を守る。誰にも言わないと思うよ」
結衣が自信に満ちた笑顔でそう告げると、ラクロット氏も納得して頷いた。
心に引っかかるのは、やはり王子の秘密。目に見えるもので、見たら驚くもの。
誘拐犯については、探るなと言われたが、こっちについては調べてみてもいいかもしれない。
結衣は行方不明当日の、王子の足取りを追ってみる事にした。