クランベールに行ってきます


「け、決してそんな事は……だって、あんな奴……」

 しどろもどろに否定しようとするが、益々心に動揺が広がり、なんだか顔が熱くなってきた。それをすかさずジレットが指摘する。

「お顔が真っ赤ですわ」

 にこにこと微笑むジレットを見て、結衣はガックリと項垂れた。侮れない。この少女は鋭すぎる。またしても敗北を喫した結衣は再び懇願する。

「お願い! それも内緒にしておいて。特にロイドには」
「そんな無粋な事はいたしません。ヒューパック様はいい方だとレフォール殿下から伺っております。影ながら応援させていただきますわ」

 結衣は思わず苦笑を漏らす。やはりみんなロイドの二重人格ぶりに騙されている。そう考えた途端、ふと思った。

(もしかして、本当のロイドを知っているのって私だけ?)

 少しドキリとして、心が弾んだが、すぐに否定する。そんなわけはない。今までロイドをいい人呼ばわりしたのは、彼より年や身分が上の人ばかりだ。そういう人たちに対して、いい大人が横柄な態度をとるわけはない。

 あまりにもギャップがありすぎるだけで、厳密に言えば二重人格ではないのかもしれない。自分だけ特別だと変な期待をするのはやめよう。
 ジレットには申し訳ないが、応援してもらったところで、自分はともかくロイドはからかって遊んでいるだけだと思う。

 とりあえずは尻叩きの刑を免れるためにも、本来の目的を果たさなければならない。正体がばれているのだから、かえって訊きやすい。

「ジレットは、王子様が教えてくれるって言った秘密って、何だと思う?」

 結衣が尋ねると、ジレットは少し首を傾げた。

「わかりませんわ。ただ、目に見えるものだと思います。見たら驚くよって、おっしゃってましたから」
「目に見えるもの?」

 王子はロイドのマシンがお気に入りだと聞いた。昔もらったという機械のおもちゃだろうか。しかし、その場で見せずに”次に会った時”に教えると言った理由がわからない。

「それって、その場で見せるわけには、いかなかったのかしら」
「帰り間際でしたから、時間がなかったのかもしれません」
「そっかぁ」

 時間がなくて見せられなかっただけで、それがロイドのくれた機械のおもちゃだったとしたら、行方不明の原因とはあまり関係がないような気がする。

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