怪談短編集

3.鏡に映ったのは?


 座席に座るとすぐに安全バーが下ろされた。

 さっきのジェットコースターとペアは変わり、今度はジルとエリンが三列目、ジョンが四列目。このアトラクションの乗り物は全八列だが、ジョンが一番後ろだった。

 人気のないアトラクションなのか、単に園内に人がいないだけなのか。

 ブザーと同時にアトラクションが動き出す。

 前に座るエリンがジルと喋っているのが、よく見えた。

 あれ?とジョンは思った。ミラールームという名前のくせに、ひとつも鏡が設置されていない。見えるのは歪んだ時計ばかり。

 たくさん時計はあるのに、同じ時を示すものは存在しない。

 車体が、一つの時計をすり抜けた。ジョンの体が、一瞬痛んだ。

 時計を抜けた先にはまた、時計があった。

 今にも触れそうなくらい近場にある時計。それにてを伸ばした途端、車体が大きく揺れた。

「わっ」

 前列で、誰かが声をあげたのだろうか。低く、しゃがれた声が聞こえる。
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