恋わずらい
出逢い
2011年、それは香夏子が30歳を迎える年だった。

大学で中国語を学び、留学経験もある香夏子は、その中国語の面白さにとり憑かれ、中国語を活かしながら自分の個性を活かせる仕事を―それを追い求めてなんども転職を重ねてきた。

キャリアウーマンというわけではないが、結婚より仕事の充実が先と考えていた香夏子は、まわりの女友達が結婚しても、羨ましいとは思ったものの、自分はまだまだと悠長に構えていた。幸い、香夏子は見た目より若く見え、小柄で人当たりがよいため、周りに寄ってくる男性も少なくなかった。

だから、焦りはなかった。しかし常に、孤独感は感じており、パートナーを欲していた。
香夏子は信じていたのだ。いつか、いつか、心から尊敬できる理想のパートナーが自分の目の前に現れると・・。

そして、そんな理想のパートナーに出会ったのは、30歳の誕生日の2ヶ月前のことだった。

佐藤浩二・・・中国ではとても有名な日本人だ。中国のメディアで発信をしたり、本を出版したりしている人だ。なんでも中国で一番の大学で教鞭もとっているとか。彼の中国語は、中国人も尊敬するほど、上手いと聞いていた。

その日、彼は日本で行われる大学フェアで講演を行うことになっていた。人材会社で働く香夏子は仕事の関係で参加しており、彼のことは以前から知っていたので、一度講演も聴いてみたいと思い、香夏子は会場へ足を運んだ。
講演が始まり、彼の発する言葉に、香夏子は胸を打たれた。
いままで沢山の日本人の、中国関連の講演をみてきた。しかし正直、どれもうそ臭く、会社にお金をだしてもらって中国に行っているので、日本人が知っている中国という目線でした話ばかりだった。

しかし彼はちがった。

自分の生々しい中国での実体験を、いち中国に身をおく日本人の立場から語った。自分が中国に留学していたころのことを思い出した。とにかく話がリアルで面白かった。

講演が終わると直に、香夏子は名刺交換をしにいった。物怖じしない性格が香夏子の強みだった。
「はじめまして。加藤香夏子と申します。人材会社で、中国事業を担当しております。」
「佐藤です。よろしく。」

一瞬で香夏子は恋におちた。そしてその頃は、想像もしなかった。彼とその後、深い関係になっていくことは。
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