シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

記憶 煌Side

 煌Side
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神崎家のようで、神崎家ではねえ。

同じ箇所は多いんだけど、違う箇所も多いんだ。


いつも緋狭姉が酒を飲んで横になる…続きの和室4畳半は、この居間にはなく、代わってピンク色のラグが敷かれ、玩具がはみ出たフリーボックスが置かれている。

子供の遊び場のような空間だ。


俺の知る神崎家は、歩けば軋んだ音をたてる床に、消音効果のあるピンク色の絨毯が敷かれているが、今はベージュ色のラグ。

テレビの位置は変わらないが、テレビを見るためのソファは…古くさいデザインの若草色のソファ。

俺が知る神崎家では、柔らかみがあるデザインにくすんだピンク色をしててもっと小せえし、こんなソファ俺にはまるで記憶にねえ。

ソファの前のテーブルには雑誌が散乱しているけど、こんなテーブル俺初めて見たし。


まるで別世界の…疑似空間としか思えなかった。


8年前の新聞があっても、この空間が本当に8年前の神崎家を示しているのか…俺には判断する材料もねえし、納得するよりも虚構だと思う方が、俺にはごく自然なことだった。


俺の知らねえ家具。

俺の知らねえ男女。


だけど俺の記憶に残るチビ芹霞は居て。


真実と虚構が入り乱れる混沌の光景。

この舞台が何を意味しているか判らねえ俺は、櫂の様子を窺い見た。


櫂はあからさまに驚愕していて…端正な顔は苦痛に歪んでいた。

明らかに何かを知っている素振りの櫂。


そして櫂は叫んだんだ。


「……煌、お前此処から出ろ。

いいから直ぐ様、此処から出るんだッッ!!!」


――と。



まるで恐怖を目の当たりにしているような、絞り出したかのような掠れた声。



それに訝った時――

視界に…すっと影が動いたんだ。


そこにいたのは…

真紅の邪眼を持つ、子供の制裁者(アリス)。


その髪の毛の色は――


「え?」


俺と同じ髪の色。



だぶる。

だぶった。


俺の知らない記憶。

櫂と芹霞と緋狭姉が知ってる記憶。


「まさかこれは…」


これは――

8年前の…"あの日"だ。


俺は直感した。



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