シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

利息 玲Side

 玲Side
*******************


突如現われた氷皇。

僕達を引っ掻き回すに良いだけ引っ掻き回し、元来の酷薄さを漂わせて僕に寄越したのが…入塾案内のパンフレット。

今この時期に、現役高校生でもない僕に、塾に行けなどと不可解なことを言う。

僕はそのパンフレットに見覚えがあった。

これはかつて、火事にあったマンションから逃げ出すようにして、皆で宿泊したロイヤルホテルのロビーにて、氷皇からのプレゼントとして、桜華の制服と共に芹霞が受け取ったものではなかったか。


あの時も渡された意図が全く見えぬまま、パンフレットに記載されている運営組織名を眺めていた気がする。



"黄幡会"。


………。

オウバンカイ。


反芻するように、その単語の響きを反射的にカタカナ変換した僕の頭で、不意に1つの長い文字列が再構成された。


"シュウキョウホウジン オウバンカイ"



「今度のものはお前の分だ。お前の名で、手続きはすんでいる」



加えて、"僕の名前での手続き"というキーワードで、更に深く掘り起こされた…出来れば忘れていたかった記憶が蘇ったんだ。

青く染まった、唾棄したい記憶が。



『新規ボンドカー購入につき、

請求書2発行済。トイチは敢行中

by青い007』



さあっと…僕から血の気が引いた。

僕、まだ振り込んでない!!!


更には――


「玲。"解いた"のか?」


それはつまり、名指しで送られる青い手紙のことだろう。

腹立たしい心地になりながらも、僕は都度きちんと解いているはずで……。


………。


いや、解いていないのが1つあった。

僕の視界の片隅に…百合絵さんが寝ていた場所の仕切りカーテンが開かれている。

氷皇が、芹霞を探す名目で…カーテンを開けていたのだとしたら。

僕からよく見える絶妙な位置に、青い手紙が貼られている…青いクーラーボックスが鎮座しているのは、偶然とは思えない。

暗に急かされていたのだと気づいた時には、時既に遅し。

氷皇が自ら乗り込み、直接問い質すという…異例な事態に陥っているのは、それに気づかない僕へ制裁を加えにきたのかもしれない。


「解いていないな、その様子では。では、中身には目を通したのか? その上での判断か?」


酷薄めいた顔。

妙に押し鎮められた声音。


まるで嵐の前の静けさのようだ。

< 582 / 1,366 >

この作品をシェア

pagetop